皿ばねが割れた ⇒ 表面疲労とクラックの進行
「皿ばね」という、リング状で断面が円錐様の円盤ばねの規格は「JIS B 25706 皿ばね」で決められている。
わずかな変位で高荷重を負荷できるため、ハンマ機構の反力緩和に便利に使わせていただいている。
1865年にジュリアン・フランソワ・ベルビルさんが原理を発明したことから、
ベルビル・スプリング(Bellevill spring)とも呼ばれていますが、やはりJISを尊重して「皿ばね」と呼びたい。
その皿ばねが割れてしまいました。
原因は、過度な連続した使用にあり、後から聞くところによると、ポータブルドリル本体から、
ハンマ部分を外して使用したということで、それならばこういう結果にもなるよ、
皿ばねが割れただけで済んでよかったですね。
というくだりまでは、前回記事の使いまわし。
断面を観察して、破損原因を推定し、製品の改善に役立てなければなりません。
実体顕微鏡でマクロに観察します。
まず探すのは、ビーチマークと呼ばれる、アサリの貝殻などに見られる同心円の模様です。
ビーチマークとは、金属疲労が進行していく、割れていく過程の足跡です。
その同心円の模様の中心に、金属疲労スタートする破損起点があって、その破損起点に応力集中をさせないようにするのが、
製品改良の肝といっていいでしょう。
写真から、ビーチマークと破損起点が見て取れます。
赤矢印の先端が破損起点です。
ちょっと強調したスケッチと見比べると、なるほど、これがビーチマークか、と、わかります。
このパターンは、表面疲労をきっかけとする破断面です。
破断面を斜めに観察します。
破損起点は、表面がわずかに剥離しているようです。
その延長方向には、なにやら円状の摩耗跡。皿ばねが支えるハンマの肩の跡です。
皿ばねを押しつぶそうとする繰り返し荷重により、応力の最も高いハンマの肩を受ける部分に、
表面疲労が生じて表面が点状に剥離したのです。
この現象をチッピングといいます。
そして、そのチッピングを破損起点として、金属疲労が進行し、破損に至ったというストーリが完成します。
ということは、破損した皿ばねには、放射状に同規模のクラックがあって、たぶんピッチもそろっている、
という仮説が生まれ、カラーチェックをしてみた結果、その仮説が裏付けられました。
この結果から、どのように改造をするかというと、応力集中の防止、すなわち応力を分散させるために、
ハンマの肩を大きく円弧状にすること、そして、皿ばねの耐力を上げるために、重ね枚数を追加する、この2点ですね。
形あるものは必ず壊れる、などといっているようではダメ。
破面は語る、製品の改善は、破損の積み重ねにあり、そんなお話でした。