「ばね」という機械要素について vol.5 スプリング・ラビリンス ビニール傘の「ばね」
機械設計に携わって30有余年、「ばね」についての知識不足を認識し、
「ばね」という太古の昔から人類が付き合っている機械要素について勉強を始めた。
まずは、世界に誇る日本工業規格JIS B0103:2012 ばね用語(Springs-Vocabulary)のおさらい。
JIS B0103:2012 ばね用語(Springs-Vocabulary)では、「ばね」をこのように定義している。
たわみを与えたときにエネルギーを蓄積し、それを解除したとき、
内部に蓄積されたエネルギーを戻すように設計された機械要素。
すなわち、弾性を利用したパーツは基本的に「ばね」属といえ、「〇〇ばね」などと分類されることになる。
さて、ある風の強い雨の日、よくある話だが、ビニール傘の骨が折れてしまった。
ある情報によると、日本の傘消費量は世界一で、年間1.3億本の傘を消費し、そのうち8,000万本がビニール傘だそうだ。
その一方で、「折りたたみ傘」の使用率は世界の半数以下、傘を大切にする意識が低いらしい。
さながらにして、壊そうとして壊しているわけでなく、防ぎようのない強風による破損なので、
傘を大切にする意識が低いといわれても、釈然としないものがある。
先ごろ、COP25が開催され、日本はCO2削減に前向きでなく、化石燃料をたくさん消費する国として、
化石賞という不名誉な賞をいただいてしまった。
Webによると、約400gのビニール傘のCO2排出量は、1.8kgだそうで、
東京で水道水を使用したときのCO2排出量が1トンあたり268gだから、約6.7トンに相当する。
毎日お世話になるお風呂、容量200リットルを使うとして、なんと33回分の風呂の水!
1本のビニール傘の破損が、地球環境にそれほどの悪影響を与えている認識はまったくなかった。
ビニール傘を壊したら100タタキの刑、くらいの意識改革が必要かもしれない。
さて、「ばね」の勉強、というか、ビニール傘の構造。
そもそも、これだけ使っていながら、いかにして「ばね」で傘が開くのか、構造を気にしたことがなかった。
まず、肝になる傘のパーツから。
ビニールのカバーを直接的に支える図中の緑の線が「親骨」
親骨を支えるつっかえ棒で図中水色の線が「受骨」
受骨を支える小さな骨で図中の紫色の線が「押骨」
いわゆる傘の柄が「シャフト」
放射状の受骨の中心にあってシャフト上をスライドする「ハブ」
放射状の押骨の中心にあってシャフト上をスライドする「ランナ」
シャフトを軸にしてハブとランナの間にある「ばね」
傘を閉じた状態のとき、ハブとランナは、相互間の距離が縮まることにより、
「ばね」が圧縮されつつグリップ側にスライドしてロックされる。
ロックを解放したとき、縮んでいた「ばね」が解放されて、ハブとランナ間の距離が離れる。
結果として、押骨が受骨を引いてスイングさせ、さらに受骨が親骨を押し上げ、傘が開く。
骨同士が支えあう反力を、ハブとランナ間の「ばね」の弾力にとるとは……。
ハブとランナがシャフト上をばねの戻り力でスライドするとは……。
シンプルだが、なんと素晴らしい構造、考えた設計者に花丸を捧げたい。
妙な展開になってしまった……スプリング・ラビリンス、出口が見えない。
vol.6に続く