「ばね」という機械要素について vol.6 スプリング・ラビリンス ビニール傘の「ばね」2
「ばね」という太古の昔から人類が付き合っている機械要素について勉強を始めた。
ところが、おかしなことに、ビニール傘に話が転じてしまった。
まずは、世界に誇る日本工業規格JIS B0103:2012 ばね用語(Springs-Vocabulary)のおさらい。
JIS B0103:2012 ばね用語(Springs-Vocabulary)では、「ばね」をこのように定義している。
たわみを与えたときにエネルギーを蓄積し、それを解除したとき、
内部に蓄積されたエネルギーを戻すように設計された機械要素。
すなわち、弾性を利用したパーツは基本的に「ばね」属といえ、「〇〇ばね」などと分類されることになる。
さて、ある風の強い雨の日、よくある話だが、ビニール傘の骨が折れてしまった。
仕方がないので、ビニールと金属を分別し廃棄処分しなければならない、その場面で、ふと気づいた。
還暦まで数年のこの年まで、「ばね」の弾性を利用して開閉するジャンプ機能の機構を
よく知らないで傘をさしていたこと。
ということで、傘の開閉の仕組みと「ばね」の仕事については、前回の勉強で理解を深めた……。
ところが、なんと、傘の張りが、そもそも「ばね」であることに気付いた。
ビニールを張る親骨が円弧状にしなっているではないか、そして閉じたとき親骨は直線に戻っている。
つまり、親骨は「円弧ばね」に該当することになる。
ということは、日本古来の竹の親骨に和紙を貼った番傘は、親骨をしならせる作りではないので、
円弧ばねに相当しないし、もちろんジャンプ傘でないが、洋の東西で、傘の構造の思想が違うということらしい。
ビニール傘の破損一つで、ずいぶん勉強できた、素晴らしいコスパである。
さて、せっかく?破損したので、もう少し研究したい。
破損状況は、曲がった親骨が、内側に曲がっていることから、この2本の親骨の間のビニール幕に、
降伏強度を超える過度な風圧が負荷し、円弧の外側に親骨を曲げた。などと、考察することになる。
折れた親骨を測定してみた。
親骨は、0.3mmの鋼板、おそらくSPCC材などの軟鋼を、コ字断面にプレス加工していて、
幅は3.9mm、鋭角のない曲げ断面。表面は、亜鉛メッキ処理されている。
材料力学的に評価する。
断面係数 z=(BH^3-bh^3)/6H=4.358mm3
断面二次モーメント I=(BH^3-bh^3)/12=8.498mm4
この強度は、直径3.6mmの丸棒材料に相当するが、断面積は34%しかないので、重さも34%しかない。
板材を1回プレスするだけで、重さを34%にできるなら、材料コストとバランスできるかもしれない。
消費者の使い勝手を考えると、軽さというメリットが大きいので、設計的には正解であろう。
JIS G 3131 熱間圧延軟鋼板(Hot-rolled mild steel plates , sheet and strip)
記号 | C | Mn | P | S | 引張強さ |
SPHC | 0.15%以下 | 0.60%以下 | 0.050%以下 | 0.050%以下 | 270N/mm2以上 |
またしても、妙な展開になってしまった……スプリング・ラビリンス、出口が見えない。
vol.7に続く